中学校2学年第4時「もめごとだって解決できるさ!」 コミュニケーション発展 (Wordバージョン)

 人間関係を円滑にし、何か事を進めていこうとするとき、結構、いろいろな要素がからまって問題をややこしくしているのが常です。この授業では、調整と仲裁という二つの課題をこなしていきます。日程の調整については、一見、日曜日の午後が有力なのですが、「海に行くのに午後からではなぁ。」ということであれば、誰かの都合を調整しなければなりません。岩田さんの部活の試合が土曜日で終わってしまうかもしれませんし、土曜日の早い時間に終わる可能性もゼロではありません。伊藤さんが調整役を引き受けたので、習い事を休むという決断をするかもしれません。また、一応次の土日となっていますが、次の次の土日に行こうという結論でもいいのです。つまり、正解のない答えをどのように出していくか、子どもたちの発想が楽しみです。しかし、もっとも重要なのは、大橋さんと小川さんの関係をいかに取り持つかです。台本の台詞から判断してもらえば、どうやら大橋さんは、小川さんが悪口を言っていると思い込んでしまっているようです。小川さんは楽天家なので、ほとんど気にしてませんし、大橋さんの気持ちには気がついていないようです。まあ、こういう人間関係のこじれはよくあるパターンですね。関係性が少し離れてしまうと、何気ない相手の行動が誤解を招いてしまうことがあります。このようなときに、「相手の気持ちを想像しながら自分の主張をする。」というアサーションが重要です。いかに、相手の立場に立って考え、折り合いをつけることができることを促進していくか。誰かが仲裁役になって間を取り持つのですが、子どもたちはどのような答えを出すのでしょうか。楽しみですね。
 文字化して、総合的に考えれば結構すぐに判断できるのですが、ロールプレイングを観ながら一気に状況を知らされる子どもたちにとっては、事情を整理するのに時間がかかってしまいます。15分くらいは、グループで整理する時間を保障してあげたいものです。
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【ダウンロードできるもの】

支援プラン、 掲示物、 ふりかえり用紙、 
1.ワークシート
2.フリップ
3.かぶり物イメージ
4.台本

【ねらい】 コミュニケーション基礎
 多様な判断力や考えをもった人間どうしの関係を、どう整理していくかという課題である。一人ひとりを大切にしながらも、ものごとに優先順位をつけて調整をしていく力と、他者を説得していくときに、相手の立場に立って主張できるアサーティブなあり様というものが、もめごと解決にいかに有効であるかに気づいていく。


【概要】
 5人の登場人物が、全員そろって遊びに行くために、事情を整理し、もめ事を解決していくという内容である。教員2人でロールプレイングを行う。(教員一人でフリップを使って説明することも可能ではあるが、非言語的な表現も含んで事情を理解してもらうにはロールプレイングが有効である)2人で5人を演じるので、登場人物のかぶり物を使用して一人1役と一人4役をこなす。ロールプレイング後、子どもたちはグループで解決策を考える。いつ行くのか。誰を誰がどう説得するのか。いろんな案が出てくる(教員が驚かされるような内容も・・)。グループの考えがまとまると、それを実現するための台本づくり。これまでの学習が生かされて、いかにアサーションをうまく使った作品ができあがるか、この授業の醍醐味である。

【ポイント】
 教員のロールプレイングが非常に重要である。登場人物ひとり一人の台詞は短いのであるが、台詞の背景にある非言語的表現を、演技者である教員がしっかりと演技することで、子どもたちのイメージが膨らんでいく。場合によっては、「次の次の土日に・・」とか「試合を休んじゃえば・・」等々の意見が出てくることもあるが、正解が存在しないのがこの授業の特徴である。肝心なことは多様な解決方法を、教員が、まず認めることである。教員に認めることができる多様性があれば、教員も驚くような意外な解決策が出てくるかもしれない。


【子どもの気づき】
・みんなでいろいろ考えて意見を出し合って「これにしよう!」って決まった時はすがすがしい気分になれる。
・こういったもめ事は日常でもあるのでこの経験を生かしていきたい。
・自分の考えだけではみんなは動かないと感じた。時には我慢することも大切だと思った。
・人は伝え方で変わるのではないかと思った。・自分では考えられなかった解決の方法を発表していてそういう考え方もあるんだなあと思いました。
・ほんの少しだけど、班の人たちと絆が深まったんじゃないかと思う。

【教員からのコメント】
・子どもたちの普段の生活によくある身近な話を、学年の教員がロールプレイングで示したので、生徒は興味関心を持つことができたと思います。生徒の日常では、ここまで粘り強く遊びの相談をしたり、考えたりすることはないと予想されていました。しかし、授業での話し合いでは友達の考えを聞いて自分の考えと比べたり、課題解決策に取り入れたりして学びに結びつけることができたと思います。今後、アサーションを使えばより良い人間関係をつくっていけるということを知り、徐々に身につけてほしいと思います。


【深める】
 ワークショップのような多様な気づきを生み出す授業をさして、学校の先生は「正解を教えない授業」というように感じることが多いようです。しかし、これは大きな間違いを含んでいます。なぜだかわかりますか? 実はワークショップには「正解が存在しない」ということが正解なのです。ワークショップというものは、何かを生み出すものなのですが、こういうワークショップを行うと、こういう結果を生み出すという決めつけが問題であるわけです。当然、ひとつのエクササイズやアクティビティーなどを通じて起こる気づきを予想することはできるのですが、ワークショップを通じて起こることが多様なわけですから、正解というものを確定することはできません。どうしても正解という言葉を使いたければ、すべての結末が正解であると言えるのです。

 つまり、ワークショップで大事なことは、正解か正解でないかを決めることはほとんど意味のないことであり、結論にまで到達するプロセスが重要であるのです。ファシリテータは、よくエクササイズをつうじて「起こっていること」を大切にすると表現しますが、この「起こっていること」がプロセスであるということになります。

 「もめごとだって解決できるさ!」の授業に取り組むと、「正解が存在しない授業」ということがよく理解していただけると思います。アサーションにはDESC法という雛形がありますが、あくまでもそれはひとつの現れであるだけで、DESCという手順を踏まなくても「相手のことを想像しながら主張する」というアサーションの核さえふまえていたら、すべてアサーションの技法であると言えます。もちろん、アサーティブではない依存的な表現をする人もいるわけで、それも含めてシェアリングのテーブルに載せることで、気づきが生み出されていきます。アサーティブが良くて、依存的は悪い、という善悪ではないのです。良い悪いを決めてしまう時点で、非ワークショップになってしまうのです。非操作的な姿勢こそが人間の成長を促します。

 
ワークショップは
「正解を教えない授業」
ではなく
「正解が無い
(多様な)授業」なのです。